絶対に安全、そう言い切ることのできる場所がないことくらい知っていた。

だからゼロとなり、この世界を変えようと思った。

妹のため、そして自分のために。

妹の笑顔を守ることは自分の幸せで、彼女が幸せであることも自分の幸せ。

だから、ルルーシュは自分がエゴで動いているといわれればそれは否定しない。

けれど、ゼロには大義名分が必要だ。

駒を納得させるだけの力と理由、それを示せば手に入る未来。

たとえどんな障害を目の前にしても、負けないだけの自信があった。

予想外に手に入れたギアスという力を使えばいずれ世界を変えることができると信じていた。

否、今でも信じている。

この力だけではない。ルルーシュが今手にしている力は少なくとも一年前に比べればかなりのものだ。

「不満そうな顔だねルルーシュ」

優雅に笑う、彼の目の前に立つ自分。

ルルーシュ・ランペルージとしての偽りの自分。

それを見透かし、嘲笑うのはこの学園には相応しくない人物だ。

「どうして、お前がここに」

「兄が弟に会うのに理由が必要か?」

「……」

「迂闊すぎるよ、ルルーシュ。名前がお前も妹もそのままじゃないか。本気で隠れるつもりがあったとは思ってなかったよ?」

「俺たちは死んだことになってるはずだ。殺したのは、ブリタニアだろう」

「だから、探して欲しかったんだろう?」

まるで、ルルーシュの望みを叶えてやったような言い方だ。

腹を立てても仕方がない。彼に出し抜かれるのはこれが初めてではないのだから。

昔からいつだって人の上にたって人を見下して人を利用する。

それがこの兄だ。

「戻っておいで、ルルーシュ」

「断る」

「まさか逃げられると思ってるのか?」

「……」

シュナイゼルがルルーシュの存在を認識してしまった以上、存在を隠し通すことはできない。

だが、自分にはギアスの力がある。

これがあれば、シュナイゼルの記憶の中からルルーシュとナナリーのことを消すことはできる。

「せっかく久しぶりに会えたんだ。いつまでそこに突っ立っているつもりだ?」

学園の応接室のソファに座って手招きするシュナイゼルに軽く舌打ちをして、ルルーシュは仕方なく向かい合うように腰を下ろした。

呼びに来たミレイが変な顔をしていたのは当然だ。

まさか、ミレイだって皇族が学園に現れるなんて夢にも思わなかっただろうから。

「今更、死んだはずの弟に利用価値なんてないだろう。こないだ、ユーフェミアをゼロごと爆撃したらしいじゃないか」

「ユフィには怖い思いをさせてしまったけど、あれは仕方がなかった」

結果的にユーフェミアの怪我はたいしたものではなかったし、ルルーシュも死なずには済んだ。

けれど、あの屈辱は忘れない。罠をかけて逆にはめられるなんて策士としては最悪だ。

「随分情報に詳しいね、ルルーシュ」

「どこが不自然だ?俺は、自分の存在を隠しているんだ。見つからないように相手のことを探るのは当然だろう」

「コーネリアは君たち兄妹のことも気にかけていたことくらい知ってるだろう?」

まだだ。まだ、マリアンヌことを聞くタイミングではない。

シュナイゼルには忘れてもらうしか切り抜ける方法がないのかと思考をめぐらせる。

考えることが勝つことならば、いくらでもやってみせる。それが自分の本当の武器なのだから。

「総督になった彼女に助けてくれと泣きつけとでも?俺だったら、死んだはずの皇族なんて邪魔なだけだから始末するか、人の目の届かない場所に幽閉するな」

「相変わらず、ひねくれた考え方しかしないんだな」

軽く笑って、懐かしそうにシュナイゼルは目を細める。

「お前はいつもそうだ。最善の策と最良の策を見誤るから俺に勝てない」

「何だと…?」

「今、この状況が証明している。お前は絶対に、俺やコーネリアに見つかるべきではなかった」

「…名前だけでまさか探し出したわけじゃないだろう」

「枢木スザクという接点を、俺たちが知らないわけがないだろう。お前が預けられた家の子供が今ではユーフェミアの騎士だ。あれはお前も驚いたんじゃないのか?」

シュナイゼルの言葉どおり、まさかユーフェミアがスザクを騎士に任命するなんて考えもしなかった。

彼に戦う理由を与えるには、ユーフェミアの語る理想はまさにスザクの望むものそのものだ。

真っ白で正しくてどうしようもない夢物語。

あんなものを信じるしかないスザクに、苛立ちを覚える。

「スザクがこの学園にいることから俺を探し当てたとでも?」

「ナンバーズ如きが騎士になれば、その周辺を探るのは当然だ。まさか、考えなかったのか?」

言外にそんな愚かなことはありえないと言われて、押し黙る。

この学園は、ルルーシュとナナリーに仮初の平和と偽りの仮面を与えてくれた。

「そもそも、お前は知っていたはずだ。アッシュフォードの一人娘の婚約相手を」

「ロイド伯爵、だろう?」

「アッシュフォードが誰とでも手を組むと思うのか、お前は。あの没落相手を好むのはロイドが変人だからだと本気で思うか?」

「いや、変人かどうかは俺は知らないが…」

情報としての立場ならば知っているけれど、ルルーシュは先日パーティで面識を持っただけだ。

「話にならないな」

「は?」

一人で勝手に追い詰めるように話をして、一人であっさりと結論を出すとシュナイゼルは立ち上がった。

「お前はどうして名前を隠して生きている?」

「…それは」

他に生きていく方法がなかったからと答えれば、ならば居場所を与えてやると言われるだろう。

かといって反逆の意思を見せても、甘いと笑い飛ばされた後では勝ち目がない。

確かに迂闊だった。今となっては、スザクと再会してしまったことさえも後悔してしまいそうになるほどに。

力をここで使うのは不本意だけれど、選択肢は他にない。

目を合わせようとした瞬間に、シュナイゼルはルルーシュから目を離して背を向けた。

窓の外を眺めているけれど、ガラスにルルーシュの目が反射しない限りはギアスをかけることが不可能だ。

「シュナイゼル。どうして俺に会いに来た?」

「予想を話してごらん。合格点だったなら、今日は帰ろう。ナナリーに会うのは次にしてあげよう」

振り向かせれば終わる話だ。

だが、この質問には意味がある。シュナイゼルは試しに来たのだろう。

彼ならばルルーシュが何を考えて偽りの名を手にしたのかなんて承知しているに違いない。

違う人間として違う人生を歩みたがる理由なんて、一般的に考えれば存在を隠すためだ。

「お前は何を知っている……?」

まさか自分がゼロだということにまで、短時間で行き着くはずがない。

どの接点からも自分の正体が明かされることのないようにしてきたはずだ。

失いたくないものを失って、それでも渇望する未来のために動き出した歯車は止められない。

「情報は大切だ。戦う上で条件をクリアし局面を進める重要性はお前は知っているだろう?」

「手の内を明かすつもりがないだけだろう」

「その通りだよ。ルルーシュ、少しボケたか?」

あんまりな言い方に、腹が立つ。

「今更俺たちが生きていたところで何にも使えないということを突きつけにくるほど暇じゃないと言いたいというのなら、そんなのは承知している。死んだはずの皇族とはいえ、俺たちがさほど重要じゃないことくらい」

「殺しに来たと、最初に警戒するべきだったんだよ」

声だけでも笑っていることが伝わる。

彼は昔からルルーシュで遊ぶ傾向があるけれど、勝ちを譲るほど大人でもないし甘くもない。

これはおそらく、宣戦布告だ。

その余裕を後悔させてやる。

「覚えておいでルルーシュ。お前はいつでも、俺に殺されるという選択肢から逃れられないことを」








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シュナイゼルさんに会いたい第一弾。
でもこれ純情ルル4と被ってる気がする。
次はもっと鬼畜に頑張りますね!
ネタをくれたあきらありがとう!ラブ!